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「ヴァルキュリア戦記」13 [Stellaris AAR]

日陰者たちの栄光(2276~2278年)

1.ふたりの日陰者
 ヴァルキュリア帝国軍には、それまで“日陰者”と目されていた人物が2人いた
 ひとりは陸に。ひとりは宇宙(そら)に。

 インルー=タル・グン将軍は、2250年代初頭にヴァルキュリア地上侵攻軍の創設が決まってからの35年間、ずっとその統率者であり続けた。派手な特性のない、実直なだけの中年女性士官だったが、戦乙女奴隷兵たちを訓練キャンプから親身に世話し続け、軍司令部の貴族たちが地上軍を「奴隷の寄せ集め」と見下して少ない予算しか与えぬ苦境にあっても、不平を漏らさず限られた“家計”を上手くやりくりして部下たちにできるだけ不自由をさせないよう奮闘する「奴隷兵たちのビッグマザー」でありつづけた。
インルー=タル・グン将軍(2276).PNG
 35年の戦歴の中で、ヴァルキュリア地上軍は数度の惑星降下作戦を経験したが、いずれもごく小規模な敵防衛陸軍に対する掃討任務にすぎなかった。常勝の誉れ高いアメジスト艦隊による軌道爆撃でほぼ壊滅した地表に降り立って、逃げ惑う敵兵の背中を見つめながらただ母国の旗を打ち立てるだけの「後片付け」を黙々とこなす彼女たちに、軍司令部の貴族諸卿らはますます地上軍への軽視を強くしていた。先年に天寿を全うしたアメジスト艦隊元提督インルー=デン・ハロと同名ということもあって、「地べたでゴミを拾う方のインルー」と悪言を放つ軍司令部参謀すらいたという。

 宇宙(そら)の日陰者ことドルン=タル・オルン提督は、評価の低さでインルー=タル・グン将軍のずっと下をいっていた。アメジスト艦隊や北東要塞が華々しい勝利を挙げる陰で、彼のガーネット艦隊はいつも内地待機や二次戦線の抑えといった損な役回りばかり押し付けられていた。
ドルン=タル・オルン提督(2276).PNG
 常識はずれな戦術思想や目上の者を敬わぬ性格とも相まって宇宙軍の中で孤立したドルン=タル・オルン提督は、とうとう無気力な態度を隠さぬようになっていた。特に、インルー=デン・ハロ提督が亡くなった後に、どこの馬の骨とも知れぬド新米の若造がアメジスト艦隊提督に選ばれたと知った時の彼は、折悪く旗艦の士官食堂で自分の60歳の誕生日を祝って深酒していたこともあって、部下たちの目もはばからずに荒れ狂ったという。
 口や態度は悪いものの、日ごろから艦隊の補給物資やメンテナンスをといった兵站に関しては無駄のない能率的な管理業務をこなす優れた司令官でもあることを知っている部下たちは、一様に彼に同情的だった。だからこそ、本土防衛の指揮官として内地に急きょ呼び戻された彼を、ガーネット艦隊の全将兵は真心のこもった帽振りで見送ったのである。

 この“日陰者”のふたりに、栄光ある戦いの場を与えられる時が、ついにやってきたのである。

2.オクシナベラ王都制圧作戦
 オクシナベラ啓蒙君主国の首星系オクシナベラの制宙権を確保した帝国侵攻軍は、その惑星オクシナクを制圧すべく、軌道上にアメジスト艦隊と地上軍輸送船団を集結させた。
 惑星オクシナスの地表に敵陸軍駐屯所などは確認できなかったが、荘厳な歴史建造物が建ち並ぶ王都には5個連隊の防衛陸軍が立てこもっていた。
惑星オクシナク防衛軍.PNG
(数こそ少ないが、高い地上軍補正が見てとれる)
 以前からリトルグレイなどというあだ名で呼んでいたせいで忘れがちだが、オクシナベラの種族「オクスブラキ」は、屈強な筋骨とウロコのある硬質の皮膚を備えたトカゲ人間である。
 文明化以前は大気の薄い高山で遊牧生活を営んでた彼らは、その原始の頃の強靭さを現在でも失っていない。戦乙女たちが前回に打ち負かしたナナフシ虫人ミッランの細長い外骨格に比べると、その肉体ははるかに雄大でしなやかであった。
 地上戦では、我ら戦乙女が銃火を交えるのに相応しい強敵となるはずである。

 今回、ヴァルキュリア軍司令部は惑星オクシナスへ徹底的な無差別爆撃を加えて敵防衛軍を壊滅させるというワケにはいかなかった。無数の建造物や地下壕のあちこちに散らばって隠れ潜むオクシナス防衛軍を壊滅させるためには、王都とその周辺の大地を平坦にならすほどの爆撃が必要であり、それにはかなりの月日を要するのである。
 ツムバトル自由戦士団の襲撃艦隊が接近しつつある今、そんな悠長なマネはしていられなかった。ヴァルキュリア襲撃の依頼者は、オクシナベラとは限らないのてある。他の敵対国・・・とくにヤル連邦あたりが依頼者だった場合、ツムバトル艦隊との戦いで北東要塞の守りが崩れた後の隙を狙って、自分たちが侵攻をかけようという意図がヤロニアンたちにはあるかもしれないのだ。
 加えて、オクシナベラ啓蒙君主国に必要以上の損害を与えることも、ヴァルキュリアとしては避けたかった。請求している星系と惑星だけを我々が頂いた後、オクシナベラにはけいおん軍とできるだけ互角の戦いを続けてもらい、末永く現政権(我々と同じ君主制)を保ってもらいたいのである。そうすれば、考えが理解しやすい"手ごろな宿敵"を我々は失わずにすみ、国内のタカ派による高い政府支持は持続して、平等主義者が勢いづくこともない。

 そんな戦略上の懸念と政治的思惑から、ヴァルキュリア軍司令部はインルー=タル・グン将軍に惑星オクシナスへの即時攻撃を命じた。
 「ほぼ無傷の敵防衛軍が待ち構える王都を、真っ向から突撃して制圧せよ。」そんな主旨の命令書を受け取ったタル・グン将軍は、喜びも緊張も一切表情に出すことなく、普段通り黙々と仕事にとりかかった。
 2276年6月24日。惑星地表への強襲降下が開始された。
20180915130642_1.jpg(“鉄の棺桶”ことメルケル級輸送艦から投下される無数の降下ポッドたちの黒い影。)
 全体の兵力では圧倒しているヴァルキュリア軍だったが、オクスブラキ兵たちが王都の地形を有効に活かして防戦するために完全な包囲の態勢は作れず、二方向から挟み撃ちする形に持っていくのが精いっぱいだった。
 絶望的な状況の中、オクスブラキたちは1ヶ月以上も頑強に自分たちの王とその宮殿を守り続けた。個々の生命をかえりみない血肉の壁のような彼らの防戦に、ついにヴァルキュリアの最前列にいた連隊が壊滅! そのすぐ後方の連隊も半数の戦力を失って崩壊しかかっているその時、別方向から突撃した連隊がやっと敵防御線を打ち破り、この血なまぐさい殺し合いの趨勢を決めた。
 2276年8月2日。王都を始めとする惑星オクシナク全土はヴァルキュリア軍によって制圧された。

 完全武装した戦乙女奴隷兵たちによって、王宮から和平交渉のテーブルに無理やり引きずり出されたオクシナベラ上級女王キャドゥクスⅠ世は、4日後の2276年8月6日に惑星タザズを含む5星系の割譲を認めた。キャドゥクスⅠ世は、長命な種族であるオクスブラキの中でもかなり高齢にあたる124歳という老女王であり、心労と屈辱でやつれきったその姿は痛々しかった。
20180915131035_1.jpg(貴方がオクスブラキであれば、目をそむけたくなるお姿だ。おいたわしや。)

 こうして、ヴァルキュリア神聖帝国にとっての対オクシナベラ戦争は、2年半という短さで幕を下ろした。
 戦争終結の決め手となった惑星オクシナクでの凄惨な地上戦の模様は、英雄譚として念入りに美化された上で本国の戦乙女たちの間で盛大に吹聴され、その主人公であるインルー=タル・グン将軍は一躍、時の人となった。彼女と故インルー=デン・ハロ提督にあやかろうと、戦乙女の女児には「インルー」と名づけるのが大流行したほどである。
 だが、本人は奴隷兵たちの待遇改善を訴える以外は、ひたすら脚光を浴びるのを避け続けているようだ。その謙虚な態度に、「出る杭は打つ」を大原則にしているようなヴァルキュリア宮廷の保守的な大貴族連中も、さすがに賛辞を惜しまないようだった。
 「地べたのゴミ拾い」と呼ばれた寡黙な女将軍は、その献身にふさわしい名声をやっと与えられたのである。

3.ドルン・タッチ
 勝ち戦にすぐ浮かれはしゃぐ傾向のある戦乙女たちだが、今回はオクシナベラとの和平に気を緩める痴れ者は宮廷の中にさえいなかった。ツムバトル襲撃艦隊が、本国に迫りつつあるからである。
 だからといって、むやみに慌て騒ぐ者もいなかった。前回のテバゾイド襲来の時とは違って、ヴァルキュリアには迎撃の心備えが整っているのだ。ドルン=タル・オルン提督は、すでに予備艦隊の旗艦に腰を落ち着けている。その兵力は、駆逐艦10隻にコルベット18隻。けっして十二分ではないが、北東や南東の要塞と連携すれば相当な防衛力を発揮できる。ドルン=タル・オルンは、両要塞のどちらにも駆けつけられる位置に麾下の艦隊を待機させ、蛮族どもの到来を首を長くして待ちわびた。
 2277年9月。帝国軍情報部が、北東方向から接近しつつあるツムバトルの艦影を捕捉した。その数は、巡洋艦3、フリゲート艦10、レイダー艦18。戦力評価値にして71,00。予備艦隊の1.8倍に相当する強敵だが、北東要塞を有効に活かせれば戦力は上回っている。勝敗は、ドルン=タル・オルン提督の采配にかかっていた。
 こちらを軟弱な文明国と侮っているのか、蛮族の襲撃者たちの歩みは遅かった。そのお陰で、予備艦隊は敵より早くシプリム星系に到着。万全の態勢で“そのとき”に備えた。

 2277年、11月10日。無防備にシプリム星系へと侵入してきたツムバトル襲撃艦隊との戦端が開かれた。
 ドルン=タル・オルン提督は、全艦を最大戦速でツムバトル艦隊へと突っ込ませた。群がり来る小型艦ばかりの我が軍に、ツムバトル側の頭目「ガブの息子 フェチ」は嘲り笑いをあげながら「皆殺し」の号令を発した。
 だが、劣勢に見えるヴァルキュリア艦隊のはるか後方から、北東要塞のレーザー砲列が味方の隊列の隙間を縫うように正確な長距離射撃を浴びせ始めると、ガブの息子の野蛮な嘲笑はピタリと止まった。
ツムバトル艦隊との戦闘 (3).jpg(画面左端に位置する北東要塞の防衛プラットフォーム群が、緑色のX線レーザーを放っている。要塞の統合射撃管制システムによって、誤射することなくこのような長距離射撃が可能となっているのだ。画面右端には、ツムバトル巡洋艦の巨大な艦影が3つ並んでいるのが確認できる。)
 混乱するツムバトル艦隊の陣形。機敏なヴァルキュリア小艦艇たちが敵艦の間に飛び込んで縦横無尽に飛び回り、その乱れをさらに大きくしていく。シールド出力を若干落とす代わりにアフターバーナーを装備して機動性を高めた「リトルバード級」駆逐艦が、その名にふさわしい華麗な小回りで真空の闇を舞い踊った。
ツムバトル艦隊との戦闘 (4).jpg(リトルバード級駆逐艦を撃墜しようとリッパーオートキャノンを掃射するツムバルトのレイダー艦。連射される曳光実体弾が細い筋になっているのがわかる。船体には悪趣味なドクロのペイントが浮かび上がっており、ヴァルキュリア側のレーザー砲の良い的になっている。)
 蛮族の軍艦はいずれも物体装甲を重視する設計になっており、レーザー兵器主体のヴァルキュリア艦船にとっては相性の良い標的だった。代わりにエネルギーシールドは貧弱そのものであり、北東要塞に装備されたシールド妨害装置によってさらに弱体化されている。
 X線の照射がツムバトル艦の船体に次々と穴を穿つ中、1隻のヴァルキュリア・コルベットがついに敵旗艦「アン・チュラキス」に取り付いた。アフターバーナーを全開にして素早く敵の死角に回り込んだその艦は、撃ってくれと言わんばかりにさらけ出された巨大などてっ腹めがけて艦首レーザーを撃ち放った。
ツムバルト旗艦vsコルベット.jpgコルベットと巡洋艦のサイズの違いがよくわかる映像。蛮族の巡洋艦はその巨体の割には速度が優秀なため、このレーザー砲撃は惜しくも外れてしまっている。)
 さすがに荒くれ者どもを束ねるだけあって、ガブの息子フェチはわが身に迫る不意の砲撃にも怯むことはなかった。しかし、頭目の指揮がおろそかになったことでツムバトル艦隊はさらに混乱し、不用心にも前に出過ぎた他の巡洋艦「アン・シルティス」「カー・フラニス」が宙間魚雷の直撃を仲良く食らって共に轟沈する事態となった。

 そして、2277年12月6日。蛮族の頭目フェチは、自由戦士の誇りを捨てて逃亡を決断した。緊急ワープアウトした旗艦「アン・チュラキス」を追って、他のツムバトル残存艦もすべてシプリム星系から姿を消していった。
 逃走かなわず宇宙の塵と消えた蛮族の艦艇は、巡洋艦2、フリゲート6、レイダー10。対してヴァルキュリア側の損失は、駆逐艦とコルベットがそれぞれ1隻に、防衛プラットフォーム1基のみ。
 大勝利である。

 遠い後方からの援護射撃を目くらましにしながら、サイズでも数でも勝る強固な敵艦隊にするりと肉薄して、混乱に陥る相手を巧みに翻弄する・・・。一歩間違えば無謀な突貫以外の何ものでもないこの危険な戦術を果敢に実行して、しかも成功させてみせたドルン=タル・オルン提督こそ、“奇才”と呼ぶにふさわしいだろう。
 シプリム星系をキャンバスに彼が描き出した奇跡は、のちにヴァルキュリア艦隊養成所で「ドルン・タッチ」として語り継がれていくことになる。ただし、「絶対に真似しようと思うな」という但し書きつきでだ。ヴァルキュリア軍において、「インルー」という女名が“信頼と王道”を表すならば、「ドルン」という男名はまさに“狂気と危険”の代名詞となっていくだろう。

 何はともあれ、ヴァルキュリア神聖帝国はやっと平穏を取り戻したのだった。
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